2021年7月24日土曜日

熱海市の土砂関連の手続きと行政指導の経緯について

 ここまで、マスコミの報道で焦点となっている「盛土」とは異なる意見を申し上げたが、ここに来て、7月7日時点での静岡県発表の資料を見つけたので、転載する。赤字は筆者のコメントである。


転載元 静岡県 http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-520a/documents/kaihenkoui1.pdf

2007.3.9 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取計画届出書を市に提出(面積 0.9446ha、盛土量 36,276 ㎥、受理書交付 2007.4.9)→ この時点で、森林法の5条森林に該当するかどうか、本来はチェックしなければならない。静岡県の土採取条例は、森林法の1ha以上の林地開発にその案件が該当すれば、適用除外になるとの定めがあるからだ。土採取担当が届出をまず受けるのではなく、県農林事務所に林地開発になるかどうかを判断してもらい、その結果、林地開発にならなければ熱海市は(森林法側で運用している)小規模林地開発届出と土採取届出を出すように指示をしていくのが正解だろう。また、このように森林法と盛土とが競合する場合は、森林法の適用を優先するのが原則である。これは、県土採取条例が森林法に対する適用限界を明確に定めていることに加え、逆に森林法側は樹木を切るところから始まり、形質変更(盛土)はもとより、その後の「転用」に至るまでの監視義務を負うからだ。盛土の規制条例は、森林法で定める(最初から最後までの)行為のうち、「形質変更」の部分のみを担当することに過ぎない。当然、土採取の届出が出ていた、ということになると、森林法側では「小規模林地開発」(伐採から盛土を含んだ形での形質変更、転用後の姿)の届出が出ていないといけない。

2007.4.27 市から県東部農林事務所に、A社が土地改変面積を拡大したとの通報があり、県東部農林事務所が現地調査。土地改変面積が 1ha 超に拡大されており、県東部農林事務所が林地開発許可違反と判断。(森林法 10 条の2第1項) (この時点では、渓流部に盛土はされていなかった。)→ いつかわからないが渓流部に盛土をしたことはかなり問題。これ以降に変更の届出が出てきているが、図面に「渓流部の盛土」が記載されているか確認が必要である。行政側でどれだけチェックができる体制だったのか、それとも、業者側にかなりの悪意があったのか…。

2007.5.31 県東部農林事務所からA社に、土地改変行為の中止・森林復旧を文書指導(林地開発許可違反面積 1.2329ha)(森林法 10 条の2第1項)→ 受取り方によっては、グッジョブな文章だが、私は、ここが転換点だったと思っている。少なくとも2,329㎡の違反面積があって、なぜ林地開発許可に該当します、申請してください、と指示できなかったのか。これは、違反した部分は山林に復旧すれば、「林地開発」に該当しない、という暗黙ルールが県に存在しているため。しかし、 1.2329haもやっていれば、その後始まる土砂の搬入で、1haを超える面積を「形質変更」するだろう、という危険性はこの時点で排除できないため、今後、違反行為の是正は「林地開発許可」の発動により是正していかなければいけないのではないか、と思う。森林法は「盛土は所管外」の意識が強いと思うが、前述の通り森林法で規制すべき事柄の一つであることは言うまでもない。また、この時点で唯一、「申請・許可」権を発動できる唯一の法令である。残念ながら、現在の森林法の運用は法第1条『もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする』という意義から乖離しているのでは、と思ってしまう。

追記 目的は残土処分との報道を確認。そうなると、残土の上で植栽、種子吹付の指導をしたことになる。林地土壌改良の目的ならOKだろうが、残土処分の上で林地改良は理解できない。

2008.8.7 県東部農林事務所が、植栽、種子吹付、丸太木柵工を確認。 (2007.5.31 県指導の)林地開発許可違反の是正が完了。(森林法 10 条の2 第1項) → これは盛土施行前だけに行い「いいですよ」という性質のものではない。森林法側としては、1haという区切りがあるので、盛土施行後にもこの確認は行うべきである。盛土を所管外ととらえていた証拠ではないか、と思う。ただ、種子吹付を行うところは通常盛土部であり、もし、形質変更をした部分で吹付をして開発面積から除外するようなことをしていれば、かなりまずい指導となるのではないか。林地開発になるかならないかの瀬戸際のところで「種子吹付」をしてくれれば開発面積から除外します、という指導を行ったことになる。ここは要確認である。土砂の搬入は下記の2009.3.19から、であるが、この時点で盛土があったことを匂わす文脈である

2009.3.19 A社が土砂の搬入を開始

2009.7.2 市がA社(行為者)・B社(施工業者)を指導(防災措置と改変面積の求積)  → ここで違和感がある。担当者は現場を見た上で、「こんなところまでやっているはずではない。」と感じ、「面積拡げた?」と問いかけたはずである。その結果、変更届出せ、ということになったと思うのだが、当初の届出面積から 250㎡しか拡がっていない。1ha近い面積で山林かつ斜面部の形質変更250㎡をよく見抜けたな、と思うが、感覚としては、もっと広い面積に対し「形質変更」があったのではないか、と推測する。少なくとも、1haを超えた面積の盛土は「林地開発申請」となるので、担当者がそのことに気づいていたのか、業者側が悪意で面積を削って窓口で1haを超えてない、と担当者を恫喝したか、とか、まあ、いろいろと勘ぐってしまう。決して推測で言ってはいけないとは思うものの、このあたりの当事者のやり取りとか気持ちについては、後々争点になるだろう。また、両罰規定(第19条)により届出を担当した行政書士も今となっては覚悟をしなければならない事案だ。

2009.12.9 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第1回) (面積 0.9696ha、盛土量 36,641 ㎥ 工期限 2010.4.8 工法:ロックフィル→土堰堤) 

2009.12.10 県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第1回)受理 

2010.3.23 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届 (第2回)工期限 2010.4.8⇒2010.7.8 

2010.3.23 土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第2回)受理 

2010.8 土採取条例に基づく造成工事が概ね完了(土砂搬入は 2010.6.30 に完了)→ 渓流部を埋めたのはいつなんだろうか。もし公図上の水路であり、盛土図面に施行範囲として記載されていたら、責任の帰結がかなり変わってくると思う。公図上の水路であり、盛土を避けている計画であれば、業者の不適切工事であり、かなりの部分の責任を業者は負うことになる。

2010.8.25 熱海市から盛土の中に産業廃棄物が混じっていることが発覚、市と県東部健康福祉センターが撤去を指導 

2010.8.31 県土採取等規制条例に基づいて市が、廃棄物処理法に基づいて県東部健康福祉センターが土砂中に木くずの混入を確認  → 結構、業者側も狡賢い。盛土が始まる前に産廃処分場を作るとなれば申請を出せ、となるが、一応盛土が終わりに近い時期で産廃発覚となれば、盛られた土砂が盛土規制にとって、逆に担保に取られたような形となり『これから先は産廃でやってください』とは言えなくなってしまった、と推察される。盛土担当としては、産廃の許可があれば盛土側の施行監督義務は条例上の仕組みとしては免責される。しかし、産廃は盛土の上にある。逃げようがなかった。逆に、産廃の担当としては、許可できるものかどうか、問答無用なものかどうかをまず考えるが、危険な盛土の上に産廃など到底承服できるものではない。撤去を指示するのは当然だと思うし、さらにこちらは告発体制が整えられているので、業者側も見かけ上は撤去に応じた。しかし現在の産廃担当の体制は、地中にあるのは追わない、という考え方がある。監督権がありながら自ら掘り出すことは通常しないので、あくまで搬出を確認した、らしいが、全て産廃を撤去した、と信じるわけではない。単純に見かけ上の話である。盛土現場では産廃混入がよく言われるが、判別は時として困難であり、ここまでは盛土規制、ここからは産廃というような明確な基準(区分け)が必要であるとも思う。例えば、土砂の中に産廃が混入していれば、産廃担当から中止命令を行い、ゴミは全部撤去させるとか、○%までは運用上okとするのか、など(ゴミをOKすること自体が矛盾ではあるが…)。実は、土砂の搬入では、故意ではないゴミ混入は日常茶飯事であるからだ。今後、盛土の法制化が実現する際には、厚労省と国交省はこの問題をよく話し合ってほしい。

私は、この件を書き始めた時から、これは盛土事件というより森林法と産廃の問題だと言っているが、ここでも同様である。

2010.9.17 市からA社に対し県土採取等規制条例に基づく工事中止と完了届の提出を要請  →工事中止をしろ、と言ってる割には完了届を出せと言う矛盾…。産廃の投棄をやめろ、ということであれば意味は理解できるが盛土側で産廃規制に見紛うような分野に手を出してはいけなかった。余計問題が混乱する。この場合、保健所側に行政命令を発動してもらい、盛土担当としては「盛土が終わってるなら早く完了出せ。」とするべきだった。バタバタだったのか?。

2010.10.8 市からA社に対し県土採取等規制条例に基づく土砂搬入の中止と完了届 の提出要請に従わないことから土砂搬入の中止を要請 

2010.11.17 ~ 県東部健康福祉センターの廃棄物処理法に基づく指導により、関連○社 が木くずを搬出したことを確認 

2011.2 土地所有者変更(A社⇒C者)→ ここについては、やはり新所有者、旧所有者ともに疑念を持たれる行為である。新所有者側は現在、盛土していることは知らなかったとし、前所有者の行為について『県と相談する』くらいの話をしていると報じられている。言葉通り受け取ると、前の所有者が悪く新しい所有者は本当に知らなかったのかも、と思ってしまうが、もし、新しい所有者は宅地分譲の目的を持ち、『造成してくれれば買うよ』と事前に意思表示があったかもしれない、と思っている。

旧所有者はこの土地で残土を引き受ければついでに儲かるし、造成が完成すれば、実際に林地だが買った時の何倍もの値段を吹っかけても買った時は1㎡あたり何十円、何百円の山林である。儲からないわけがない、ということで計算をしたと思う。旧所有者は盛土(残土処分)+産廃投棄で十分儲かり、あくまで山林目的として『造成』する。林地開発などというリスクは次の所有者が負えば良い、と考えたのではないか。だから、完了後、3か月程度で契約を行い手放せたのである。一般の山林売買としては異例の早業である。新しい所有者は、すぐにでも分譲を行いたかったが、前所有者は林地開発申請・許可を徹底的に回避し小規模林地開発届出で行ってしまった関係で、違反し過去に県農林事務所から指導を受けた部分まで分譲対象にしたかったが(あくまで仮定)、もう形質変更(盛土)面積はぎりぎりだし、ここまで含めるとなると『林地開発』を一回経由しなければならないので、ほとぼりが覚めるまで放置しよう、どうせ税金は山林のままなら安いし、と考えたのではないか。

その推測で分析すると、盛土をしたのは、新所有者の旧所有者に対する『停止条件付売買』がそもそもの発端であり、逆に新所有者は山林からの転用が完了していない『瑕疵物件』を売りつけられた、という『因縁』がある。そのため、新所有者の言動はかなり積極的に見え、堂々と『県と協議』するという意向にも顕著に現れているのではないか。https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000221775.html?&ampcf=1

あくまで、推論の積み重ねであることを念頭において読んでいただきたい。

※ インターネット上に掲載されている土地登記簿は、途中差押が入っているのだが、どういうことなんだろうか。県発表の情報と異なる。登記簿記載が事実であれば、商談など成立したのか疑問がある。


追記 林地開発にならなかった場合の小規模林地開発の届出について調べていたところ、千葉県がかなりしっかりとやっているようなので、必要書類について引用させていただきたい。静岡県については、確か伐採届に毛が生えた程度の簡便なものだったと記憶している。正直これが同じ法律から出た運用だろうか、と思うくらい違ってきていると思う。また、千葉県については安易に権限移譲せず、県森林事務所で事務を執行しているとのことである。











4 件のコメント:

  1. またまた失礼します

    同じ文章が気になり、改めて読み解いていました。

    理由は、県土採取等条令が2回のあったのではないかと言う疑問が生じたからです。

    文章の記載も不自然で2007年年時点で盛土が行われていると読み解ける。


    航空写真からの読み取りですが、今回崩落した箇所の法面面積でほぼ1haとなります。

    2006年の航空写真では土地購入時は更に上流部分の谷にも土砂がありません。

    2006年からの合計で見ると約2haの土地が盛土造成されています。
    2008年種子吹付を行い一回完了していますが、

    2009年土砂運搬開始、
    つまり通路より上流部が一回目

    その後航空測量があり今の記者会見の資料となり

    その後更に被せるように2回目の盛土

    こう考えないと、通路より上部の盛土が説明付きません。

    如何でしょう?

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    1. 正直すごい指摘だと思います。県の時系列の資料だと、突然県農林事務所が登場してきて『違反です』と断じ『指導しました、現地は林地開発違反ではありません』と言い、去っていきます。結局熱海市はこんな規模が大きく厄介な問題を抱え込まなくてはならなかったことになり、森林法部隊については片や問題を解決したような書きっぷりになっている。そこには県が調査しきれていない、もしくは隠したい事実があるのかな、と、隠れている伏線の存在を感じます。

      私も、盛土が二段階にわたって行われたんではないかと思います。あくまで推測にとどまりますが、具体的な順番としては、2009年9月土地取得後に無届、無許可の捨土が行われて、県農林事務所と熱海市及び事業者が協議した結果、『1haを超えていない面積だから、熱海市に土採取条例の届出を提出すればいいよ』となったんではないでしょうか。これにより2007年3月の条例届出となったんでは、と推測しています。あくまで推測です。

      この部分の経緯が県発表の資料から抜け落ちてしまっており、『土地改変』面積が、1haを超えたから農林事務所が指導しました、その指導の結果、林地開発許可違反ではなくなりました、これにより熱海市が権限移譲により土採取条例による対応を行いました。県の手は離れています、と私は読みといたわけです。

      通路より上の部分、というご指摘がありますが、盛土条例によっては(もし、通路が公共用法定外財産なら)通路が中に介在するならその上下の盛土部分を一団の土地と見なさず二団の土地と見なした可能性があります。よって届出も二回に分けられた可能性もありますが、土採取条例上は数量的にあまり規制が強くなく、実務上二段階に分けてもあまり意味がないと思われるため、一回出せばいいよ、図面と数量は正確にお願いします、とした可能性の方が高いと思います。

      一方、林地開発ではどうかと言いますと、通路を挟んで一団の土地としたか、二団の土地としたかどうかはわかりません。事業者側は1haを切る面積として土採取の届出をしていることから、林地開発規制を回避する意思があったことは確実だと思います。

      『通路より上部の盛土』が、もし、5条森林に該当し、今回崩れた部分を含めて当時農林事務所が『一団の土地です』と言っていれば、林地開発許可となっていたんでしょうけど、今回の結果からすると、通路より上の部分は①5条森林ではなかった。②通路を介在するから、あくまで別件と判断した。(その場合、通路より上の盛土部分が1ha未満なら小規模林地開発届出が出ていないとおかしい) ③見落とした、もしくは見ない振りをしたのでは。

       という疑問が生ずるわけです。今回は検討材料をご提供いただきましてありがとうございます。いずれにしても、県はこれらの森林法の適用の問題をどのように当時解決していったのか、知りたいと思います。非常に言いにくいことですし、一見わかりにくいことなんですけど、県は盛土の適用を検証することより、森林法の開発許可をめぐる検証を優先して行なっていくべきだ、と私は思います。

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  2. 森林法の検証は今回の実態を知る
    重要な要素だと思っております。

    通路に関してですが、公共用法定外財産には位置しません。
    地番図も確認しています、あくまでも個人の敷地内で通路でしかありません。
    (赤道にもなっていません)
    建築基準法上の道路指定もありません。

    土石流発生地点上部ですが、
    2005年の航空写真では手付かずです
    2006年に土地取得その後、一年以内の間に伐採を行っています。
    これは国土地理院のオルソ画像で確認できます。

    県の公式記者会見で盛土のメカニズムの話も出ていますが
    2007年の航空測量を元にしています。

    つまり、最初に伐採及び、盛土された部分は無視されて説明していることになります。

    更に言うと、2006年頃から盛土にコンクリートガラを投棄していると思われます。
    これも航空写真での確認なので確かとは言えませんが写ってしまっています。

    状況から考えると崩れ残った上部も含め数万立方メートルの産業廃棄物を含んだ土砂が残っている可能性があるのではないでしょうか。

    実はこの同時期、既存住宅側も宅地造成 約3ヘクタール以上が同一の工事として行われています。

    私見ではありますが、本来であれば全体を都市計画法に基づく開発行為
    更に森林法に基づく林地開発
    上記、同時許可
    もちろん調整池も必要になりますし、
    今回の造成計画はそもそも成立していなかったのではないかと考えてしまいます。


    ところで、隣接地の太陽光発電施設ですが、

    静岡県の定める森林(変更)計画書に
    保全すべき保安林として記載されている事はご存じでしょうか?

    土砂流出防備保安林です。

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    1. 度々のご指摘ありがとうございます。航空写真で土地権限取得後に形質変更の事実が確認できるということですね。この施行者、事業主がいったい誰だったのか、その部分の盛土も含めて届出がされているのかどうか、確認が必要です。
      また、森林法の適用でもその部分が考慮に入っていれば林地開発になった可能性が高く、農林事務所と県庁で何が起こっていたのか…。

      保安林の話は初めて聞きました。あの発電施設下半分は副知事の説明でも、緊急伐採と書かれておりましたので、内心、県やっちまったなあ、と思いましたが、まさか保安林が絡むなんて。正直、開発行為がどのような手法で可能になったのか知りたいところです。そもそも保安林相手に開発行為など私の経験の中ではありません。直ちに山林の回復の指令を受けるとばかり思っていました。

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