2021年7月28日水曜日

熱海の盛土 残土処分目的だった。

 残土処分目的で熱海市に届出が出ていたそうである。これは土採取の届出。

別の話だが農地法関連の運用では、農地に残土処分を行う場合は農地転用の許可案件である。農地を処分場に転用する行為であり、純粋な農地改良とは認められないから、である。

ここでは、林地に『残土処分』という目的を県農林事務所は把握していたのか、それとも知らなかったのか。違反した部分を林地に復するなら開発面積から除外しますよ、と指導した形跡がある。あまり表立っていないが。その指導のあと盛土行為は行われたのだが、県農林事務所はそれを指導の時点で見抜いていたか、知っていたかどうか。これは極めて重大な問題である。

2021年7月24日土曜日

熱海市の土砂関連の手続きと行政指導の経緯について

 ここまで、マスコミの報道で焦点となっている「盛土」とは異なる意見を申し上げたが、ここに来て、7月7日時点での静岡県発表の資料を見つけたので、転載する。赤字は筆者のコメントである。


転載元 静岡県 http://www.pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-520a/documents/kaihenkoui1.pdf

2007.3.9 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取計画届出書を市に提出(面積 0.9446ha、盛土量 36,276 ㎥、受理書交付 2007.4.9)→ この時点で、森林法の5条森林に該当するかどうか、本来はチェックしなければならない。静岡県の土採取条例は、森林法の1ha以上の林地開発にその案件が該当すれば、適用除外になるとの定めがあるからだ。土採取担当が届出をまず受けるのではなく、県農林事務所に林地開発になるかどうかを判断してもらい、その結果、林地開発にならなければ熱海市は(森林法側で運用している)小規模林地開発届出と土採取届出を出すように指示をしていくのが正解だろう。また、このように森林法と盛土とが競合する場合は、森林法の適用を優先するのが原則である。これは、県土採取条例が森林法に対する適用限界を明確に定めていることに加え、逆に森林法側は樹木を切るところから始まり、形質変更(盛土)はもとより、その後の「転用」に至るまでの監視義務を負うからだ。盛土の規制条例は、森林法で定める(最初から最後までの)行為のうち、「形質変更」の部分のみを担当することに過ぎない。当然、土採取の届出が出ていた、ということになると、森林法側では「小規模林地開発」(伐採から盛土を含んだ形での形質変更、転用後の姿)の届出が出ていないといけない。

2007.4.27 市から県東部農林事務所に、A社が土地改変面積を拡大したとの通報があり、県東部農林事務所が現地調査。土地改変面積が 1ha 超に拡大されており、県東部農林事務所が林地開発許可違反と判断。(森林法 10 条の2第1項) (この時点では、渓流部に盛土はされていなかった。)→ いつかわからないが渓流部に盛土をしたことはかなり問題。これ以降に変更の届出が出てきているが、図面に「渓流部の盛土」が記載されているか確認が必要である。行政側でどれだけチェックができる体制だったのか、それとも、業者側にかなりの悪意があったのか…。

2007.5.31 県東部農林事務所からA社に、土地改変行為の中止・森林復旧を文書指導(林地開発許可違反面積 1.2329ha)(森林法 10 条の2第1項)→ 受取り方によっては、グッジョブな文章だが、私は、ここが転換点だったと思っている。少なくとも2,329㎡の違反面積があって、なぜ林地開発許可に該当します、申請してください、と指示できなかったのか。これは、違反した部分は山林に復旧すれば、「林地開発」に該当しない、という暗黙ルールが県に存在しているため。しかし、 1.2329haもやっていれば、その後始まる土砂の搬入で、1haを超える面積を「形質変更」するだろう、という危険性はこの時点で排除できないため、今後、違反行為の是正は「林地開発許可」の発動により是正していかなければいけないのではないか、と思う。森林法は「盛土は所管外」の意識が強いと思うが、前述の通り森林法で規制すべき事柄の一つであることは言うまでもない。また、この時点で唯一、「申請・許可」権を発動できる唯一の法令である。残念ながら、現在の森林法の運用は法第1条『もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを目的とする』という意義から乖離しているのでは、と思ってしまう。

追記 目的は残土処分との報道を確認。そうなると、残土の上で植栽、種子吹付の指導をしたことになる。林地土壌改良の目的ならOKだろうが、残土処分の上で林地改良は理解できない。

2008.8.7 県東部農林事務所が、植栽、種子吹付、丸太木柵工を確認。 (2007.5.31 県指導の)林地開発許可違反の是正が完了。(森林法 10 条の2 第1項) → これは盛土施行前だけに行い「いいですよ」という性質のものではない。森林法側としては、1haという区切りがあるので、盛土施行後にもこの確認は行うべきである。盛土を所管外ととらえていた証拠ではないか、と思う。ただ、種子吹付を行うところは通常盛土部であり、もし、形質変更をした部分で吹付をして開発面積から除外するようなことをしていれば、かなりまずい指導となるのではないか。林地開発になるかならないかの瀬戸際のところで「種子吹付」をしてくれれば開発面積から除外します、という指導を行ったことになる。ここは要確認である。土砂の搬入は下記の2009.3.19から、であるが、この時点で盛土があったことを匂わす文脈である

2009.3.19 A社が土砂の搬入を開始

2009.7.2 市がA社(行為者)・B社(施工業者)を指導(防災措置と改変面積の求積)  → ここで違和感がある。担当者は現場を見た上で、「こんなところまでやっているはずではない。」と感じ、「面積拡げた?」と問いかけたはずである。その結果、変更届出せ、ということになったと思うのだが、当初の届出面積から 250㎡しか拡がっていない。1ha近い面積で山林かつ斜面部の形質変更250㎡をよく見抜けたな、と思うが、感覚としては、もっと広い面積に対し「形質変更」があったのではないか、と推測する。少なくとも、1haを超えた面積の盛土は「林地開発申請」となるので、担当者がそのことに気づいていたのか、業者側が悪意で面積を削って窓口で1haを超えてない、と担当者を恫喝したか、とか、まあ、いろいろと勘ぐってしまう。決して推測で言ってはいけないとは思うものの、このあたりの当事者のやり取りとか気持ちについては、後々争点になるだろう。また、両罰規定(第19条)により届出を担当した行政書士も今となっては覚悟をしなければならない事案だ。

2009.12.9 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第1回) (面積 0.9696ha、盛土量 36,641 ㎥ 工期限 2010.4.8 工法:ロックフィル→土堰堤) 

2009.12.10 県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第1回)受理 

2010.3.23 A社が熱海市に県土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届 (第2回)工期限 2010.4.8⇒2010.7.8 

2010.3.23 土採取等規制条例に基づく土の採取等変更届(第2回)受理 

2010.8 土採取条例に基づく造成工事が概ね完了(土砂搬入は 2010.6.30 に完了)→ 渓流部を埋めたのはいつなんだろうか。もし公図上の水路であり、盛土図面に施行範囲として記載されていたら、責任の帰結がかなり変わってくると思う。公図上の水路であり、盛土を避けている計画であれば、業者の不適切工事であり、かなりの部分の責任を業者は負うことになる。

2010.8.25 熱海市から盛土の中に産業廃棄物が混じっていることが発覚、市と県東部健康福祉センターが撤去を指導 

2010.8.31 県土採取等規制条例に基づいて市が、廃棄物処理法に基づいて県東部健康福祉センターが土砂中に木くずの混入を確認  → 結構、業者側も狡賢い。盛土が始まる前に産廃処分場を作るとなれば申請を出せ、となるが、一応盛土が終わりに近い時期で産廃発覚となれば、盛られた土砂が盛土規制にとって、逆に担保に取られたような形となり『これから先は産廃でやってください』とは言えなくなってしまった、と推察される。盛土担当としては、産廃の許可があれば盛土側の施行監督義務は条例上の仕組みとしては免責される。しかし、産廃は盛土の上にある。逃げようがなかった。逆に、産廃の担当としては、許可できるものかどうか、問答無用なものかどうかをまず考えるが、危険な盛土の上に産廃など到底承服できるものではない。撤去を指示するのは当然だと思うし、さらにこちらは告発体制が整えられているので、業者側も見かけ上は撤去に応じた。しかし現在の産廃担当の体制は、地中にあるのは追わない、という考え方がある。監督権がありながら自ら掘り出すことは通常しないので、あくまで搬出を確認した、らしいが、全て産廃を撤去した、と信じるわけではない。単純に見かけ上の話である。盛土現場では産廃混入がよく言われるが、判別は時として困難であり、ここまでは盛土規制、ここからは産廃というような明確な基準(区分け)が必要であるとも思う。例えば、土砂の中に産廃が混入していれば、産廃担当から中止命令を行い、ゴミは全部撤去させるとか、○%までは運用上okとするのか、など(ゴミをOKすること自体が矛盾ではあるが…)。実は、土砂の搬入では、故意ではないゴミ混入は日常茶飯事であるからだ。今後、盛土の法制化が実現する際には、厚労省と国交省はこの問題をよく話し合ってほしい。

私は、この件を書き始めた時から、これは盛土事件というより森林法と産廃の問題だと言っているが、ここでも同様である。

2010.9.17 市からA社に対し県土採取等規制条例に基づく工事中止と完了届の提出を要請  →工事中止をしろ、と言ってる割には完了届を出せと言う矛盾…。産廃の投棄をやめろ、ということであれば意味は理解できるが盛土側で産廃規制に見紛うような分野に手を出してはいけなかった。余計問題が混乱する。この場合、保健所側に行政命令を発動してもらい、盛土担当としては「盛土が終わってるなら早く完了出せ。」とするべきだった。バタバタだったのか?。

2010.10.8 市からA社に対し県土採取等規制条例に基づく土砂搬入の中止と完了届 の提出要請に従わないことから土砂搬入の中止を要請 

2010.11.17 ~ 県東部健康福祉センターの廃棄物処理法に基づく指導により、関連○社 が木くずを搬出したことを確認 

2011.2 土地所有者変更(A社⇒C者)→ ここについては、やはり新所有者、旧所有者ともに疑念を持たれる行為である。新所有者側は現在、盛土していることは知らなかったとし、前所有者の行為について『県と相談する』くらいの話をしていると報じられている。言葉通り受け取ると、前の所有者が悪く新しい所有者は本当に知らなかったのかも、と思ってしまうが、もし、新しい所有者は宅地分譲の目的を持ち、『造成してくれれば買うよ』と事前に意思表示があったかもしれない、と思っている。

旧所有者はこの土地で残土を引き受ければついでに儲かるし、造成が完成すれば、実際に林地だが買った時の何倍もの値段を吹っかけても買った時は1㎡あたり何十円、何百円の山林である。儲からないわけがない、ということで計算をしたと思う。旧所有者は盛土(残土処分)+産廃投棄で十分儲かり、あくまで山林目的として『造成』する。林地開発などというリスクは次の所有者が負えば良い、と考えたのではないか。だから、完了後、3か月程度で契約を行い手放せたのである。一般の山林売買としては異例の早業である。新しい所有者は、すぐにでも分譲を行いたかったが、前所有者は林地開発申請・許可を徹底的に回避し小規模林地開発届出で行ってしまった関係で、違反し過去に県農林事務所から指導を受けた部分まで分譲対象にしたかったが(あくまで仮定)、もう形質変更(盛土)面積はぎりぎりだし、ここまで含めるとなると『林地開発』を一回経由しなければならないので、ほとぼりが覚めるまで放置しよう、どうせ税金は山林のままなら安いし、と考えたのではないか。

その推測で分析すると、盛土をしたのは、新所有者の旧所有者に対する『停止条件付売買』がそもそもの発端であり、逆に新所有者は山林からの転用が完了していない『瑕疵物件』を売りつけられた、という『因縁』がある。そのため、新所有者の言動はかなり積極的に見え、堂々と『県と協議』するという意向にも顕著に現れているのではないか。https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000221775.html?&ampcf=1

あくまで、推論の積み重ねであることを念頭において読んでいただきたい。

※ インターネット上に掲載されている土地登記簿は、途中差押が入っているのだが、どういうことなんだろうか。県発表の情報と異なる。登記簿記載が事実であれば、商談など成立したのか疑問がある。


追記 林地開発にならなかった場合の小規模林地開発の届出について調べていたところ、千葉県がかなりしっかりとやっているようなので、必要書類について引用させていただきたい。静岡県については、確か伐採届に毛が生えた程度の簡便なものだったと記憶している。正直これが同じ法律から出た運用だろうか、と思うくらい違ってきていると思う。また、千葉県については安易に権限移譲せず、県森林事務所で事務を執行しているとのことである。











2021年7月17日土曜日

熱海市 土砂崩れでの水路について (公務員の本質からの分析)

 公図を確認していないので書くかどうか迷っているのだが…、崩落してしまった盛土をしていた部分には、公図上の水路はなかったのだろうか。

 もし、水路があれば、河川管理者は原状復旧、機能復旧もしくは付替えの処理を指示できたはずである。河川管理の権限からすれば、盛土全体の撤去は無理だと思うが、河川の機能だけでも確保しておけば、今回のような大規模な崩落は防げたはずである。

 これは、もし、水路が公図上にあったら、という仮定の話である。


 ここからは、私特有の穿ったものの見方をしたい。

 実は、公図上の水路、赤道というのは、平成13-16年に市町村に一括譲与され、市町村で底地と機能管理(河川占用)を行うことになった。それまでは、国有財産部局長である県知事の管理であった。実はその頃でも、ある程度大きな市では機能管理を土木事務所から任されていたのだが、熱海市ではどうだったのだろう。

 要するに、急激に国県市の関係が変更され事務の編成を組み直している最中に、普通ではない、悪質な業者による重大な違反事件に内包する河川の埋立事件が発生した、ということになるが、河川機能管理の担当者がこの事態に突発的に反射的に対応できたかどうか、非常に気になるところである。なぜ、こんなことを言うか、実は国有財産の一括譲与『地方分権一括法』(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)が、静岡県特有の『権限移譲』とあわせ、熱海市のように小さく、産業構造が第三次に特化し、神奈川県熱海市と誤解を受けるくらいの県境のまちで過重な負担を強いていたのではないか、と私は勘ぐっている。

 熱海市では本件を『盛土の問題』としてとらえていたことは、ほぼ間違いないが、熱海市の盛土担当からすれば、『森林法(県農林事務所)は逃げた。市の森林法は終わった(小規模林地開発)。県の産廃は指導だけで終わった…、宅地でないから開発規制はかからない。神奈川からダンプは数珠繋ぎに来る。オレだけ取り残された。あとはテキトー県条例の盛土でやるしかないじゃん。』と鬼気迫る状況下で、河川担当と十分な協議ができたのであろうか。

 もしかしたら、『知らなかった』という可能性もある。

 いずれにしても、金科玉条の地方分権一括法が、実は問題の発端をある意味で担っていたのではないか、ということを言いたいのである。法制度が狂っている。

 少なくとも市民の安全や公益に直結したり、行政処分に関わる部隊については、行政改革という人気取り政策はもうやめるべきである。確実に不効率化をもたらし、大事なものが奪われる結果しかない。行政処分と行政サービスを国やえらい大学の先生方も混同している、のではと、この頃思う。今人事施策で実施されている業績評価制度も、崩れたという結果を見せつけられると、公務員の本質からかなり外れたことをやらされている実感しかない。崩れなければ業績は良くなるのか。業績評価が良ければ崩れないのか。まったく馬鹿馬鹿しい。これらの公務員諸氏の意見を承りたいと思う。

熱海市の土砂災害の法的規制 森林法の運用について

 本日のNHKニュースでの解説

問題は、熱海市、静岡県の規制の弱さ、国の(規制)不作為があると言っていた。

確かに、静岡県の土採取条例は届出で済んでしまい、完了検査さえもない条例であり、こんなもの規制と言えるか分からないものである。盛土形状をチェックすることもできないだろう。かといって、土砂はどんどん積まれる、産廃は入る、で熱海市の担当職員は相当な苦労をしただろう。こんなことになって、正直一生思い悩むことになるかもしれない。いや、なるだろう。

熱海市が盛土条例を備えなかったことは熱海市全体の問題だろう。NHKは国の法制化が急務だ、条例を備えても、熱海市のように条例がない自治体に盛土を増やしかねない、という静岡県のある富士山麓の自治体職員の声を紹介していた。

条例は、頑張っても罰金100万円である。産廃のように3億円の罰金に対応させるためには法律でないとダメだ、法制化を、とNHKは締め括っていた。

ある意味同意するし間違ったことは言っていないんだが、いやいや報道諸君はまだわかっていない。

この事件の本質はどこにあるか。盛土ではない。静岡県の古い条例なんだから、業者に対峙し闘える条例になっていないんだから、条例変えなきゃダメだ、国による法制化を、確かに間違っていない。建設残土の規制、国は今までまったく関わろうとしていなかった。それもあるけど本質は違う。

少なくともこの事件の本質は、森林法と廃掃法にあったと思う。まず、1haを超える森林法違反があり林地開発申請、許可を適用できるタイミングがあったのに、わざわざ植林を行わせ、面積要件である1haを切らせて小規模林地開発にさせてしまい、熱海市に届出で済ませるように県が誘導した、ということがわかってきている。その結果『申請・許可』のステージに持ち込めなかった。

もっと分解して言うと、ここには、構造的に二つの問題がある。まず、森林法の『林地開発』制度の転用制度が、1ha以上であると言う点である。これは脱法行為の温床となるし、熱海のように開発関連の規制が弱い自治体には何の規制もかからないことになってしまうので、林地開発の規制は例えば、500㎡、1,000㎡でかかるように改めるべきだろう。今回の分析では、森林法単独で規制できるチャンスがあったのだから、どこに問題があったか、林野庁はしっかりと検証してもらいたい。特に、形質変更面積や伐採抜根面積が1ha以上あったのに、規制ができなかった。これは森林法の存在を否定させるくらいのインパクトがある。

もうひとつは、静岡県の権限移譲が問題である。今回のように、実質1ha以上の形質変更に対し、県が『植林をすれば林地開発にはなりません。届出で済みます。あとは熱海市さんよろしく。』とこういう社会と公益に対し重大な結末をもたらした事案を、事実上ステージにも登場せず、水面下で済ましてしまった点があることを指摘したい。これは県で検証してもらいたいところである。

報道諸君は、盛土規制の不備をとらえて報道しているが、方向性が違う。規制がかけられるのにそういう運用しなかったのが問題なのである。盛土の県内各自治体の規制は『森林法で許可が出るなら、盛土条例は適用除外』である。この構造に早く気づいてもらいたい。要するに、今回の本丸は業務の規制法である森林法であり、運用に問題があったことをまず、考えるべきである。

また、廃掃法も許可として取り扱う事案だったと思うし、今回の行為を止められる規制だったと思うのだが、これは情報が伝わってきていないので、これ以上書けない。

いずれにしても、今回の行為をもし止められた、ならどの規制か、という意味でこの拙論を書かせていただいた。結論としては、森林法と産廃規制であり、盛土規制は実のところ今回の主役ではない。

2021年7月6日火曜日

熱海市の土砂関連の規制について

  こういった重大な事例をとりあげるのも憚られるのだが、熱海市及び静岡県の土砂関連の規制について調べてみたので、メモとして記載する。その前に、今回被害にあわれた方に心からお見舞いを申し上げるとともに、亡くなられた方及びそのご家族の方には心よりお悔やみ申し上げます。

 私の立場として、どこに責任があるとか、そういったことは明言しないしできない。ただ、今回の規制がマスコミもネット民も理解していないと思われたので、また、県知事もこういった末端行政は部下から聞いてもわかるかどうか…参考までに淡々と記述したい。特に、言いたいことは静岡県特有の背景もある、ことだ。

 また、当該地や関連する会社を間違えて『特定』し、ネットに載せてしまう方がいるのはつくづく閉口してしまう。近隣の崩れていない分譲地の販売元やカタログまで載せてしまっている。因果関係が不明確なのに近隣地のメガソーラーを云々するのもどうかと思う。品位と常識をもち、自分が誤爆されたら、と常に自分に置き換え情報発信をしてもらいたい。

 【森林法】

・当該盛土地が森林法の地域森林計画に定める5条森林かどうかを調べないといけない。もし該当すれば、下記の流れとなる。

・当該盛土地は1ha未満なのか。1haに達していれば、森林法上の林地開発に該当し、県農林事務所へ林地開発の申請を行い許可が必要となる。ただし、現在県から市に対する権限移譲の動きがあるが、熱海市は俎上にのっていないと思う。

1ha未満であれば、小規模林地開発の届出が必要となる。静岡県は市に法令の権限がなくても権限移譲を進めているので、もしかしたら小規模林地開発は熱海市がやっていて市に「届出」しているかもしれないが、報道では森林法関係の規制(というかプロセス)についてはあったかどうか、また熱海市に届出るものであったかどうかは私はわからない。

後日追記 小規模林地開発は熱海市で取り扱っているようだ。

 【都市計画関連】

・普通なら森林を「宅地化」するなら、市の開発行為、土地利用案件となり、申請、許可が必要。しかし、市(独自の)開発行為、土地利用規制については、ホームページでは見つからなかった。

(熱海市ホームページより) 『熱海市は、全域が非線引き都市計画区域となっており、3,000平方メートル以上の「開発行為」を行う場合は、都市計画法の規定により静岡県知事の許可を受ける必要があります。なお、平成1841日より、静岡県から熱海市に権限が移譲されました。』

・森林から盛土を経由して再度森林となるなら、開発行為、土地利用規制に該当しない、と許認可側(県もしくは市)は考えたかもしれない。

・宅造、分譲目的だったとも報じられているが、都市計画関連での規制や許可があったともいまだ目にせず。宅造法関連では規制地域だったとも。

盛土規制関連】

・熱海市に盛土・埋立規制の条例はなさそう。

・マスコミによれば、県条例(静岡県土採取等規制条例)による届出(07)が熱海市にされているとのこと。11年に完了報告。

・上記報道によれば、熱海市の場合、1ha以上は土木事務所へ届け出るが1ha未満は市に届け出る、らしい。

・読売新聞https://news.yahoo.co.jp/articles/92c0e93537b41d71c7663fedbdb30eeed85730ba 『県と熱海市によると、この付近の開発については07年、神奈川県内の企業が県土採取等規制条例に基づき、市に工事を届け出た。11年頃に完了報告があり、今回、この工事による盛り土が崩れた可能性があるという。』

・静岡新聞https://news.yahoo.co.jp/articles/592e99f0ad5950563aad09cc34bb8cf8e604aa6f 『県土採取等規制条例は面積千平方メートル以上、体積2千立方メートル以上の土地改変を行う場合、県に届け出をするように定めている。ただ、全国一律で盛り土を規制する法律はないため県内の自治体が国に整備を要請していた。』

・問題の県条例

静岡県土採取等規制条例

 (土の採取等の計画の届出)

3条  土の採取等を行おうとする者は、当該土の採取等に着手する日の30日前までに、規則で定めるところにより、当該土の採取等を行う場所ごとに、土の採取等の計画を定め、知事に届け出なければならない。ただし、非常災害のために土の採取等を緊急に行う必要がある場合は、この限りでない。

(適用除外等)

14条 この条例の規定は、次に掲げる土の採取等については、適用しない。

(2) 法令に基づく許可、認可、届出等に係る土の採取等で規則で定めるもの

(3) 2号に掲げるもののほか、通常の管理行為として行う土の採取等、軽易な土の採取等その他の災害の発生のおそれが少ないと認められる土の採取等で規則で定めるもの

2 前項に定めるもののほか、市町が、当該市町の区域内における土の採取等(2条第2号の行為及び当該行為を行う場所を含む一団の土地の区域において当該行為と一連の行為として行われる同条第1号の行為に限る。以下この項において同じ。)について、この条例の規定による土の採取等の規制に比べ、その規制の態様及び違反行為に対する処罰の程度を強化する条例を施行した場合には、当該条例の施行の日(次項において「施行日」という。)以後当該条例の規定の適用を受ける土の採取等については、この条例の規定は、適用しない。

静岡県土採取等規制条例施行規則

(適用除外)
第8条  
2 条例第14条第1項第2号の規則で定める土の採取等は、次に掲げるものとする。
(2) 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第8条第1項又は第15条第1項の規定による許可に係る土の採取等
(4) 森林法(昭和26年法律第249号)第10条の2第1項又は第34条第2項(同法第44条において準用する場合を含む。)の規定による許可に係る土の採取等

 【産廃関係】

・県の健康福祉センターで所管している。

・一部、産廃を埋めていた、という話が出ているが、産廃は基本「無価物」であり、有価物と考えている土砂は産廃では取り扱わない。今回、土採取の条例の適用の話が出ているので、過去は土砂として取り扱っており、産廃規制は適用外だったと県は判断したと思われる。逆に言えば、もし産廃だったら、土採取条例第14条各項に定める通り、土採取条例は適用外になったと思われる。もし産廃の投棄が認められたなら、その時点で土採取の規制適用は見送るべきだったのでは。

 【熱海市の状況】

・都市計画関連での規制があったのかどうか読み取れない。開発行為規制を県にお任せにしてきたのかもしれない。これもその後の県の権限移譲により市の所管事務となったが、形質変更、山林に復す目的で開発行為、土地利用規制を適用する意思が働いたかどうかはわからない。

・森林法については、5条森林該当の林地かどうかはわからないが、当該地は1ha未満と思われ、伐採届+小規模林地開発の届出が必要となる。その届け出を農林事務所で担当していたのか市でやっていたのかどうかは判然としない。ただし、森林法の開発行為規制についてはあまり強制力がいまいち不明で、事後の届出でも出してもらえればいいですよ、という立場である。もし、熱海市で小規模林地開発の届出をやっていたら、少なくとも、危険性の把握はできたかもしれないが、そもそも国は県を前提に森林法の運用をしているのだから、それを安易に市に権限移譲するのはどうか。

・盛土条例の不存在。熱海市はこの条例がなかった。この条例は申請・許可制度であり、谷埋めや腹付け工法はなかなか許可しない立場である。もし許可となっても相応の排水施設を設けることが条件となるかと思われる。その場合例えばアンカーや水抜工、流末の工事をさせる必要がある。また、水路、赤道といった公共用財産はそのまま埋められてしまうと困る場合が多いので、機能の確保を前提に付け替えや工事の条件化を事業者側と行っていく必要があると思う。

・都市計画関連の規制も消極的に思われる。線引きは不存在で、市独自の土地利用対策要綱などはないのでは。しかし、熱海という地域性ゆえに宅地開発関連の規制はあえてしなかったのか…。

【静岡県の傾向】

・権限移譲だらけで、実質行政の中身が空っぽになってきている。県で、こういった問題に対し機能しているのは産廃規制のみで、森林法、都市計画法さらに盛土までも市に権限移譲の名のもとに負担を求めている。聞こえはいいが、重大な事案が発生したときにどう対応するのか、県知事に聞きたいくらい(今が…)。他の県では基本的に県がやっている。この体制は今後問題化すると予想している。全国で一番権限移譲が進んだ、と静岡県は吹聴しているが、実態は法律に定めがなくても市に押し付けたという現実に気づくべきである。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48878910S9A820C1L61000/


・森林法もしかり、権限移譲をしているが、そもそも森林法の規制までも県は市に移譲していると勘違いしているのでは。違反対応、告発は県がやるべき事務であると思う。大部分の県内市町に対する権限移譲の範囲は、伐採+小規模林地開発の『届出』までにとどまることを県(農林事務所)は確認すべきである。

・盛土・埋立て(県で言うところの土採取条例)でも、市のほうでもっと厳しい条例があれば、そっち適用でいいよーって言ってしまっている(第14条第2項)。隣の神奈川県は、盛土の範囲数量が多くなれば、県の許可となっている。搬出規制もある。静岡県は実質盛土規制を市にお任せ、という実態があると思う。常識的には逆だろう。数量が多く、公益に重大な恐れを来す事案を県は処理すべき話である。ただし条例上届出なんで、危険性に対応した修正はこれではできない。措置命令、停止命令があるのだから申請許可に改めるべきだろうが、形骸化し事実上運用が不完全となっている本条例を廃し、市町の盛土条例と整合性を図った上で(神奈川県方式の条例を参考に)再構築することを今後考えなければいけない。

・都市計画関連は多くの市で県と市の二重規制である。一定規模を超えると県の土地利用審議が市の土地利用のあとにかかってくる。熱海市の場合、前述のとおり市独自の規制は消極的である。HP3,000平方メートル以上の開発行為は県の許可だったけど熱海市に権限移譲されたんでやります、とわざわざHPに書いている。少なくとも、行きすぎた権限移譲のため、責任の不明確化が今後発生する。

 ・再度言うが静岡県は権限移譲だらけで、行政が分からなくなっている点が挙げられる。違反事案を市に告発させるのか。そこまで移譲事務にないのでは。

 最後に、盛土と言っても省庁をまたいだ法制、各自治体の条例が入り組んでいる状況であり、このような事態は今後また起こりうると思う。盛土については是非国の法制化を実現し、安易に基礎自治体に権限を渡さないかたちで運用してもらいたいと願うばかりである。

7月7日追記

静岡県副知事によると、1ha近い開発面積で違法だったため林地開発の指導が行われたんだとか。その上、産廃(木屑)の混入が認められたため、保健所の指導も入った、とのことである。土採取による届出、完了も行われている。

これを聞いて、一層疑問点が浮上した。

1 まず、林地開発の違法性の中身はどうだったのか。1ha近いとは以上なのか、以下なのか。それにより、森林法の適用の仕方が全然違う。1ha未満を予定していたけど、抜根は1ha以上認められた、ということか。そうなると、森林法の許可対象となる。それとともに、(大規模市を除いて)農林事務所が完全に所管することになる。当時、違反として是正指導、申請指導をどれだけやったのか検証する必要がある。

→ 会見を確認。盛土は1ha未満の計画だったが、伐採面積が1haを超えたので、県森林法(林地開発)の指導が入ったそうである。その後余分にやったところは植栽により回復させたので、開発面積が1haを割り込み林地開発とはしなかったらしい。実は森林法はよくこの手を使い、林地開発とはさせない傾向が強い(言葉は悪いが行為後に脱法行為を指導しているように受け取られかねない印象、法律が悪いのか。)。ただし、開発面積が1haを切ることになるので、『いろいろ調べて事業者とも交渉したけど、今回は森林に戻すって言ってるからさ、残った部分は市さん頼むねっ』ということで、市に小規模林地開発の届出が必要である。

【提案】

 一度、県農林事務所で森林法違反として取り扱ったものは、違反部分を経過観察するという意味で市には引き渡さず、県で引き続き取り扱う、というルール化が必要である。最初から小規模林地開発で行われるものはまっとうな業者が多い印象だが、盛土が絡むような事案は大体、この事案のように開発面積がギリギリ1haを切り、承知で違反行為を繰り返す。県で違反として取り扱ったならば、最後まで県で取り扱うべきである。廃棄物の混入があればなおさら(県健康福祉センターも出てくるので)、森林法も県で取り扱うべきである。

 現在の森林法の指導は林地開発の未申請違反事件を林地開発にならないように指導していることが常套手段化しているように思える。概してそれは数字上の話でありその『違反事件』を形式上是正した上で、小規模林地開発とし、市に押し付けてしまうかたちに事実上なっている。その体制が、安全と公益に対し、重大な災危をもたらす恐れを内包させるものであった、と思えるのだ。

【更に疑問】

 副知事の会見を見ていて思ったのが、本件とはあまり関係ないが左側の太陽光パネルの張られた部分の下の方、緊急伐採って書いてあったのだが、それなのになぜ太陽光パネルがあるのだろう、って報道諸君には思ってもらいたかった。現在の森林法の運用はそういうものなのか。非常に残念である。

2 土採取条例については、報道を鵜呑みにするなら1ha未満だと考えられ、熱海市に届け出た。まあ、抜根は1ha以上だけど、盛土は1ha未満だったと考えれば矛盾はしないものの、面積の点で矛盾する。また、決定的な矛盾は、林地開発案件だと県が考えているにも関わらず、届出、完了が熱海市にされている点である。林地開発案件であれば、土砂条例は手を出さなくていいことになっている。県条例第14条第2号に定める『(2) 法令に基づく許可、認可、届出等に係る土の採取等で規則で定めるもの』に該当し、熱海市は県条例の適用を本件行為については(森林法違反状態ならば)停止もしくは(許可の見通しがあれば)拒絶すべきであった。完全違法とはならないが、これはかなり誤解をもたらす行為で、業者側は『農林事務所の連中がこの頃うるさいけど、土採取条例については出しとくからこれで勘弁してくれ』と勝手に解釈した結果かもしれない。また、ここにも、権限移譲の悪弊が表れてしまった、と考える。

→ これも、最初が土採取の届出であったが、そのあと林地開発の違反となりその後小規模林地開発の案件(市に届出)となったので、土採取条例上は適用除外とならなかった、ということらしい。

3 産廃と森林法の関係も気にはなるものの知識がないので明言できない。ただ、産廃を『無許可で投棄』は刑事告発案件では?。となると、行政的には原状回復命令?。もしかして、産廃が原因で林地開発の処理が進められなかった?。わからない…。ここはその道の行政経験者に教えてもらいたい。コメントよろしくお願いいたします。

4 ここまでまとめると、これは、

・静岡県土採取等規制条例により熱海市に盛土の届出がされていた。県条例ではあるが、県から市に対する権限移譲の結果である。

・また、森林法についても、1haを超える違反が一時認められたので、県農林事務所の指導により違反した面積部分に植林させその結果1haを切ったので、1ha 以上の林地開発許可を担当する農林事務所は引っ込み、届出で済む1ha 未満の小規模林地開発を担当する熱海市に届出をさせた。これも県から市に対する権限移譲の結果である。

廃棄冷蔵庫、木屑など産廃の混入もあったが、この処理顛末は現時点で不明である。この結果から、産廃はおそらく権限移譲はない。


* 赤字は県副知事の会見を聞いた上でのコメントとなる。